小手先の仕事

No.9826

 『吾妻鏡』講読会、明日から本格的に始動です。
 『紫苑』も印刷屋さんに、見積もり依頼の段階へ。これからが、編集長の「腕の見せ所」です。

 首都圏の某大学におられた先生のお話によると、最近の学生さんの中には「就活」で内定をもらった後に、チョチョイのチョイという感じで卒論を仕上げてしまう人がいるとのこと。なんでも一晩に何千字も書くのだそうです。「ただの作業にしても、大変な速さですね?」と申し上げたら、「いや、貼ってるんですよ」とのこと。まさに小手先の仕事のようです。

 ところで、「就活」と言えば、内田樹氏のインタビュー記事がありました。日頃、誰かさんが話しているのと同じようなお話しだと思われるかも知れませんが、学部生諸姉兄はぜひ読んでみて下さい。
     → http://www.asahi.com/job/syuukatu/2014/hint/OSK201301040041.html

 最近、せっかく就職したのに、僅か数年で方針転換をした人の話をよく聴きます。ほんとうは院に進学して、もっと勉強したかったのに、周囲に反対されたので、みんなと一緒に就活の波に身を投じたところ、世間で超一流と言われている会社に受かってしまった。そこで、勤めてはみたものの・・・、というケースが多いようです。
 そうかと思うと、「どんな仕事をやっても生きていけることを確認できたので、学問の世界に戻って来ました」と仰る猛者もいる。世の中捨てたものではありません。
 一番苦しいのは、自ら不本意な状況にあることを意識しながら、それを続けざるを得ないことなのかも知れません。ただ、やりたいことをやっているように見える人たちが黙って負っている重荷も見落とすべきではない。果たしてかれらは、家族環境や経済的に恵まれていたからというだけで、そう出来たのかというと、そうでもないと思うのです。
 いずれにしても、矜持をもって生きられる選択をしたいものです。

身体髪膚、これを父母に受く、あえて毀傷せざるは孝の始めなり

No.9825

 昔、祝日が待ち遠しい時期もありましたが、今は連休などあると、かえって事務仕事が停滞してしまって困るようなこともある。のこされた時間が短くなってきたから、こんなことを言うのでしょう。
 昨日は今年初めて新幹線で旅行をしました。とは言っても名古屋まで往復しただけ。片道40分ほどながら、瀬田の唐橋・三上山・彦根城・伊吹山・関ヶ原・木曽川・清洲城などが次々と見えてくるのには、実に心躍るものがございました。
 伊吹山といえば、見るたびにいつも、建久元年の上洛の際に、この山は源頼朝のトラウマを呼び起こしたのだろうかと想像してしまいます。
 頼朝で思い出しましたが、いまだに、中世前期の東国武士といえば「腕力一辺倒」みたいな理解が相変わらず人々の意識に根強いようですね。私も、かつて、そのような認識を抱いていた時期がありましたが、やはりそれは一面でしかない。
 瀬野精一郎先生が仰るように、伊豆の御家人天野遠景は確かに「殺し屋」であったとは思いますが、その一方、大宰府機構を掌握して平家滅亡後の鎮西支配を担当した統治能力(文官的素養)も高く評価する必要がありましょう。「内舎人」の官歴も有していましたしね。相模の波多野氏からは歌人も輩出していますし。
 鎌倉時代初期に西国守護に任じた東国武士は、総じて在京経験が豊富で行政手腕にも秀でた存在と考えるべきだと思います。

 『紫苑』第11号に掲載される予定の池嶋さんの富木常忍をテーマにした研究ノートを見せてもらいました。なかなか要を得た内容でした。ほかの方の分も楽しみです。

 昨夜、また尿管結石の痛みが発症。病院がお休みの時に限って、こんな目に遭います。身体の異常は精神や思考に致命的な打撃を与えることを痛切に体験。
 今年も声高に、「身体髪膚、これを父母に受く、あえて毀傷せざるは孝の始めなり」と叫び続けたいと思います。

 東京で元木先生の御講演「幻の平安京」

No.9823

 昨年、当方の公開講座に御出講下さった京都大学の元木泰雄先生が、来月、東京で講演をされます。首都圏の元木先生ファンの皆さんはぜひ。

 日時:2月15日(金曜日) 13時00分~14時30分
  場所:京都造形芸術大学 外苑キャンパス(東京都港区北青山1-7-15)
 ※ 要申込→http://www.kyoaruki.jp/events/view/166
      参加費 無料 定員160人(先着順)
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 昨日の今年最初のゼミは、各地(岡山・長野・新潟)から寄せられた美味しいお土産を囲んでの懇談会となりました(というより、私の放談会であったかも知れません→すみません)。
 『紫苑』の原稿も、何とかなりそうですね。
 ゼミ旅行の提案も。
 近場の見学にも行きたいものです。善峯寺(三鈷寺)・浄土寺(小野市)・・・など
 来週からはまた、本格的に『吾妻鏡』を読み進めましょう。
編集:2013/01/09(Wed) 09:27

グーニーズの黄色いハンカチ

No.9824

 昨日は新年初回ということでいろいろなお話をすることになり、ほどよくも読みませんでしたが、次回以降よろしくお願いします。準備していただいていた参加者の皆さんには申し訳ありません。

 日時:2013年1月15日(火)午後3時頃~(予定)
 場所:京都女子大学L校舎 3階 共同研究室
 範囲:元久二年(1205)十一月十五日・二十日、十二月二日・二十四日の各条
     元久三年(建永元年、1206)正月十二日・二十七日、二月四日・二十日・二十二日、三月十二日・十三日、五月六日、六月十六日・二十一日、七月一日・三日、十月二十日・二十四日、十一月十八日・二十日、十二月二十三日の各条

 2013年1月は、15日・22日に開催予定です。

 火曜日の『吾妻鏡』講読会は、参加者のみなさんの自主的な積極性によって支えられております。
 基礎的な史料読解のニーズにも対応しておりますので、新年から何か新しいことを始めてみようという方は、まずは見学からでも、どうぞお気軽にご参加ください。

「平安王朝の儀式とジェンダー・五節と遊女 」

No.9822

 日本史研究会の古代史部会で、昨年、当方の公開講座に出講して下さった服藤早苗先生がお話になられます。私は残念ながら出席できませんが、昨年の講座で関心を持たれた方は是非出掛けたらよいと思います。
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 日時:1月19日(土)15:30~18:00
 場所:機関紙会館5階大会議室
 講師とテーマ:服藤早苗氏「平安王朝の儀式とジェンダー・五節と遊女 ~網野善彦批判」
 〔参考文献〕
 服藤早苗『古代・中世の芸能と買売春』明石書店、2012年
 網野善彦『中世の非人と遊女』講談社学術文庫、2005年
 後藤紀彦「遊女と朝廷」(『週刊朝日百科 中世Ⅰ』朝日新聞社、1986年)
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☆ 実践女子大学の横井孝先生より、御高論「『紫式部集』をめぐる風景-「かへし 又のとしもてきたり」-」(『実践国文学』80)・「講義 源氏と源氏以後-第一一項講・「文学」と「効用」の問題-」(同 82)・「紫式部日記の効用-白詩への架橋をとおして-」(仁平道明編『源氏物語と白氏文集』新典社)・「『栄花物語』著作者のバイアス」(『むらさき』47)を御恵送頂きました。
 横井先生にあつく御礼を申し上げます。 

 「ならぬことはならぬものです」か?

No.9819

 今年は、大河ドラマをあまり神経をとがらさずに視聴できます。幸いなことですが、ちょっと思いだしたことがありますので一筆。
 皆さんよく御存知の野口実という人が、1994年に出した『武家の棟梁の条件』(中公新書)という本の中で、こんな事を書いています。

 「戊辰戦争で薩摩軍に手酷い仕打ちをうけた福島県の会津若松。実はここも男尊女卑の本場である。幕末に至るまで会津若松藩歴代の藩主に遵守された藩祖遺訓のなかには「婦女子の言、一切聞くべからず」という一条があった。
 面白いことに近世の会津藩と薩摩藩は藩士の子弟教育に共通した方法をとっていたらしい。それは地域ごとの少年(青少年)たちの自主的な学習組織が存在することで、薩摩では「郷中」、会津では「什」とよばれる。
      ・・・・・・・・(中略)・・・・・・・
 幼い会津藩士の子弟が「遊びの什」の集会で毎日復唱した「申合せ」の中には「戸外で女の人と言葉を交えてはなりませぬ」という条文があった。これは薩摩武士の「自然と婦人女子を忌み嫌うは蛇まむしを憎むに似て、道路に美人に逢えば、身不潔に及ばんとするがごとく避け遠ざかりつつ」(『倭文麻環』巻之二)という女性観と共通の土台にのった観念である。しかも什の「申合せ」の次の条文は「ならぬことはならぬものです」というもので、これは多様な価値観や生き方を否定する頑迷な人間をよしとする精神風土を育てた。
 こうみると薩摩武士と会津武士というのは似たもの同士といえそうである。そういえば戊辰戦争の白虎隊と西南戦争の私学校党のイメージには何かオーバーラップするものがある。」(p170~171)

 20年近く前の本ですから著者の「野口さん」の御意見も少しは変わっていることと思いますが。一つの見方ではあると思います。

 本日はシラバスを作成していたのですが、何かの障害が生じたらしく、保存されるはずが、エラー表示が出て、せっかく書いたものが消滅。昨日PC入力の悪口を書いた為でしょうか?
 IT社会というのは、常に根底から全てを失いかねないという不安がつきまといます。

 帰省中の皆さんも、そろそろ京都に戻られることと思います。道中くれぐれもお気をつけて。
 そういえば、私が学生の頃、庄司薫『赤頭巾ちゃん気をつけて』という小説が人気でした。たしか、映画にもなりましたね。

 明日は研究室にいるつもりです。
編集:2013/01/06(Sun) 22:18

新年あけまして『吾妻鏡』

No.9820

 明日は新年初回の『吾妻鏡』です。
 講読予定は以下の通りですが、新年初回ということもありますし、年末年始のことなどいろいろお話し合いしつつ、ほどよく読むようにしましょう。

 日時:2013年1月8日(火)午後3時頃~(予定)
 場所:京都女子大学L校舎 3階 共同研究室
 範囲:元久二年(1205)十一月十五日・二十日、十二月二日・二十四日の各条
     元久三年(建永元年、1206)正月十二日・二十七日、二月四日・二十日・二十二日、三月十二日・十三日、五月六日、六月十六日・二十一日、七月一日・三日、十月二十日・二十四日、十一月十八日・二十日、十二月二十三日の各条

 2013年1月は、8日・15日・22日に開催予定です。

 火曜日の『吾妻鏡』講読会は、参加者のみなさんの自主的な積極性によって支えられております。
 基礎的な史料読解のニーズにも対応しておりますので、新年から何か新しいことを始めてみようという方は、まずは見学からでも、どうぞお気軽にご参加ください。

 後世の歴史家(屋)

No.9821

 『吾妻鏡』の講読会。会の創立と発展の過程において、いま福井にいる山本陽一郎君が「右大将家」みたいな存在。だとすると、「右大臣家」が長村君で、岩田君は義時・泰時・時頼を一人で担っているといった感じか?そうすると、「二位殿」に擬せられるのは山本さんでしょうねぇ。
 「西八条禅尼」とか「伊賀の方」の比定が面白くなってきますね。

 今朝の京都は極寒。車のリアガラスにこびりついた氷を溶かしてから出立。私が知る限り、大学の構内で一番暖かかったのは、図書館分館。地下だからでしょうか。北向きの私の研究室は冷蔵庫の中のごとし。目下、「頭暖足寒」の状態で思考停止中です。

 『紫苑』の原稿、年末提出を執行猶予中のみなさん、明日は必ずよろしくお願い致します。

 ほんとうの自分の論文

No.9818

 科研の書類を書いているときは、これからの世の中はワードやエクセルが使いこなせないと研究者としての権利の行使も難しいのか、イヤな世の中になったものだ、ついに時代に置いて行かれることになってしまったか、と落胆させられました。そして、今は、頂いた年賀葉書の流麗な墨書を見ては、おのれの悪筆に恥入っております。
 やはり文字は筆やペンで書いてこそ心が伝わる・・・何と言われようと、そう思いますよ。
 一度、論文を、資料のメモや下書きから全部手書きで書いてみてごらんなさい。それが、あなたの書いた本当の論文ということです。

 というわけで、お送りした年賀状は、せめてものなぐさめに宛名書きと署名は手書きにさせて頂いた次第です。  

 ☆ 学振特別研究員の辻浩和君より御高論「中世前期「遊女」の組織と支配」(『藝能史研究』198)を御恵送頂きました。
 興福寺・春日社等の寺社に組織された遊女・白拍子の存在を指摘することで、朝廷による遊女支配を強調した網野善彦説を相対化。また、遊女集団の組織構造を分析することで集団の自立性と支配との関係が論じられている。「職能民」一般に回収してしまうのではなく、固有の生業と自立的組織の上に存立する遊女の存在形態を示した労作です。
 辻君にあつく御礼を申し上げます。

松本紘京大総長インタビューについて

美川圭
No.9817

 いま京大で大問題になっている「教育院」問題の当事者のインタビューです。今日(1月5日)の毎日新聞朝刊の京都地方欄。

 どうしてこういうピントのずれた人が選挙で総長に選ばれるのでしょうか。高校時代に音楽をした人、恋愛をした人の入学時のハードルを下げるなんていうのは、つまりAO入試のことで、私立大学や国立の多くですでにやっていて、しかもあまりうまく行っていない(それにしても恋愛うんぬんはさらにずれている)。こういう人相の悪いおじいさんに、恋愛が足りないなどと説教された高校生。思わず笑ってしまいます。

 それに、「自由」が権力からの「自由」だったのは、過去のことだったような言い方ですが、とんでもないことで、きわめて今日的な危機でしょう。まったくこの人は世の中がわかっていないので、この人こそ教養欠如の象徴、この人にこそ教養教育が必要でしょう。とくに理系に顕著な専門バカです。既存の概念や知識からの逸脱、とか科学と非科学の間に科学をひろげていく、なんてのは、今さらあなたに言われずとも研究者ならだれでも意識してやっていることで(うまくいくかどうかは別問題)、いまさらそれこそが新しい「自由」だなんて、言われてもちゃんちゃらおかしい。

 この辺のおかしさをインタビュアー(京都支局長)もきちんとつかないといけない。この毎日のインタビュアーは、京大国史の2年下の卒業生だけに、それもたいへん残念。学生時代はまともな女子学生と思ったのだが、組織のなかで歴史学で学んだはずの批判精神がにぶったのか。あるいは京大の教育がまずかったのか。

http://mainichi.jp/area/kyoto/news/20130105ddlk26040216000c.html

 『紫苑』の原稿を心配しています

No.9816

 昨日、1988年にTBSで放送された吹き替え版「グーニーズ」(岩田君が日本語版の最高傑作としてご推奨)がKBS京都で放送されました。ゼミ古参メンバーの御期待にお応えして、しっかりと録画を撮りましたので、視聴を望まれる方はお知らせ下さい。

 年末年始、運動不足のゆえか、どうしても体調不良になりますね。
 自分の仕事が進まないのを棚に上げて、『紫苑』の原稿を心配しています。とくに初めて論文や研究ノートを書くという方は、提出後に大幅な改稿というよう事態に至らないようにお願いします。くれぐれも。

 目下、新年度のシラバスを作成しているのですが、やりたい内容と実態の乖離を考えると、なかなか難しい。現代社会学部であらたに演習を担当する予定なのですが、これには「問題意識」という点で期待するところがあります。教養科目は法学部の学生さんを意識した内容に。宮崎の大学の法学部で担当した「日本法制史」の経験を活かして、「穢」の問題とか「境界論」も盛り込みたいと考えています。

 ☆ 大阪大学の平雅行先生より、御高論「建永の法難と九条兼実-法然伝の検討を通して-」(今井雅晴先生古稀記念論文集編集委員会編『中世文化と浄土真宗』思文閣出版)・「中世宗教の成立と社会」(高野利彦・安田次郎編『新 大系日本史15 宗教社会史』山川出版社)・「中世成立期の王権と宗教-上島享『日本中世社会の形成と王権』の書評にかえて-」(『日本史研究』601)・「法然と顕密体制」(仏教美術研究上野記念財団助成研究会報告書第38冊『研究発表と座談会 浄土宗の文化と美術』)などを御恵送頂きました。
 平先生にあつく御礼を申し上げます。

 ※ 清文堂の『中世の人物』ですが、第一巻の初校ゲラが届きました。第二・三巻の原稿もすでに印刷所に渡されており、今月下旬にはゲラが出るとのことです。
 御執筆の先生方、恐れ入りますが、もう少しお待ち下さい。 

ご挨拶

元木泰雄
No.9814

 先ほどからご挨拶を書いているのですが、一回目は戻るを押して消滅。二回目はエラー表示が出てまたまた消滅。書き込みに費やした一時間半が消えてしまいました。

 さりとて、ここで屈するわけにはまいりません。
 三度目の書き込みです。

 野口先生、野口ゼミの皆さん、あけましておめでとうございます。
 本年も何卒よろしくお願い申し上げます。

 昨年の公開講座では、初の再登壇という栄誉に浴し、まことにうれしく存じました。ところが、家族の重病に加え、自身の腰痛という思いもかけない事態に直面、果たして当日伺えるかどうかという危機的状況に陥ってしまいました。しかし、奇跡的に病人も、当方の腰も小康を得たので、ご迷惑をおかけしないで済みました。話のほうは、自分で言うのも何ですが、まさに快心の講演であったと思います。野口先生から頂いた課題も、何とか盛り込めたも自負しております。
 事前学習をしておられない方には理解は難しかったかもしれません。私は野口先生をお相手に話をいたしました。その意味は後で申し上げます。
 
 野口先生とは、平先生とともに『中世の人物』の編纂もご一緒致しました。いろいろありましたが、何とか第一巻は近日刊行というところに漕ぎ付けました。野心作揃いだけに、大きな話題になることは疑いないと思います。
 残念ながら大河ドラマ放送中の2012年内刊行という目論見は失敗でしたが、あのドラマでは販売促進にはつながらなかったでしょうね(笑)。
 
 その大河ドラマ、多くの書き込みがありますが、本当にひどいドラマでした。日本の劣化を象徴する内容と言えると思います。歴史がどうのという以前に、あまりにお粗末な脚本で、見るに堪えないドラマでした。よくまあ視聴率が9パーセントもあったものです。出演者の親類縁者がご覧になったのでしょうか?民放の知人曰く「民放のドラマはスポンサーのお金で作るから、失敗しても許される面もあるが、受信料であんなドラマを作られたらたまらんね」。
 結局、清盛のどこに魅力があるのか、何をした人物なのかさっぱりわからないままでした。「武士の世を作る」というセリフが多用されましたが、具体的には福原遷都や日宋貿易の話ばかり。何が武士の世なのか、視聴者には理解できません。脚本家が清盛の歴史的役割を理解しないまま、通説的な貴族対武士という構図に当てはめようとするので、こんなおかしなことになるのではないでしょうか。
 以前出演した、「歴史秘話何とか・・」という番組で、平氏が取り上げられた際、篤学で最新研究を良くご存じのディレクターさんから充実したインタビューを受けたことがありました。ところが、出来上がってみると通説通りのつまらない内容で、当方のインタビューなど殆ど消えておりました。プロデューサーが「視聴者のレベルに合わせた」とのこと。視聴者はアホだからこんなものでよいという発想でした。これでは、最新の成果を伝えることなど絶対にできないことになります。
 今回の大河でも、貴族と戦う武士という古めかしい構図が導入された結果、地方武士を組織する頼朝と、対照的に結局は貴族化して滅びる平氏というつまらない描き方になり、清盛の斬新な位置づけができなくなった様に思われます。

 相手があほだからこんなものでよい、というのは大河だけの問題ではありません。高名な歴史家の著作にも、実証、論理、先行研究の理解がでたらめなものをお見受けします。一般読者相手だからと言ってこんなことが許されるはずがありません。
 さらに某大学の総長に至っては、最近の学生はアホであるから、全学共通科目(一般教養)の担当者は、研究していない教員で構わない」などと言い出す始末。
 今水準が低いなら、それに迎合するのではなく、水準を上げることこそが大事ではないでしょうか。それなくして先人が築いた業績を継承することなど、できるはずがありません。
 現状に迎合、妥協する傾向が今の日本を覆っているように思います。これが「劣化」の原因であることはいうまでもないでしょう。
 一般向きの講演ではありますが、公開講座に際し、あえて最新の成果を盛り込んだ難しいお話をした背景にはそういう意図がありました。

 それにしましても、政治、大学、大河ドラマと、日本の劣化を痛感させられた一年でした。
 自身の成長と日本の発展が重なった幸福な時代が過ぎ、自身の衰えと日本の衰退が重なることになりました。八方ふさがりの世情を眺めておりますと、鎌倉時代の末期もこんな状況だったのではないかと絶望的な気分になります。
 ただ、正しい学問、大学の在り方を次世代に伝えることは我々の使命だと思います。そのために全力を尽くしたいと存じます。
 
 野口先生、ゼミの皆さん、本年も何卒よろしくお願い申し上げます。
 2013年が、すべての人々にとって良い年になりますように。
 
  

 
編集:2013/01/03(Thu) 23:49

 まさに「心中領状更無異議」(『吾妻鏡』治承4,9,9条)の気持ちです。

No.9815

 年頭から元木先生のメッセージをいただいて、「こいつは春から縁起がいいわい」であります。

 昨年は大変な時に当方の公開講座へ御出講下さり、ありがとうございました。目論見通りの大盛況でした。服藤早苗先生とのコラボレーションということもあり、あれだけ多くの聴講の方が集まった講座は数少ないだろうと思います。

 学問・研究、さらには文化環境全般にわたる劣化の進行は、まったく仰るとおりだと思います。日本の大学のあり方については、元木先生と私の共通する体験から、本当に切実なものを感じております。もはや、老耄となりましたので、身の回りで対処できる範囲でのことながら、全力で対応してまいりたいと思います。

 その点に於いて、清文堂から刊行される、元木プロジェクトこと、『中世の人物 京・鎌倉の時代』(全三巻)の第二巻に編者として参加させていただけたのは僥倖と言わざるを得ません。元木先生御担当の第一巻「保元・平治の乱と平氏の栄華」に続いて、第二巻「治承~文治の内乱と鎌倉幕府の成立」も早々の刊行に漕ぎ着けたいと思います。

 早々に素晴らしい原稿が集まっているのですが、一部の執筆者にそれぞれやむを得ない御事情が発生して、その対応で時間をとられております。担当の編集者の方にも御尽力をお願いして早期刊行を目指す所存です。すでにお原稿をお送り下さった先生方には、しばしお待たせすることになり、恐縮ですが、この場を借りて御猶予をお願い申し上げる次第です。
 平雅行先生御担当の第三巻「公武権力の変容と仏教界」、これも楽しみです。私も「宇都宮頼綱」を書かせて頂きました。

 出版に関しては、単著の執筆の御依頼を頂きながら長くお待たせしてしまっているものがございます。申し訳ありません。この数年、矜持をもって本を著すことが難しいような状況が急速に進行したことでモチベーションを減退させたという言い訳もあるのですが、やはり私自身の怠惰と耄碌が主因に違いありません。ただ、本のテーマに則した、執筆の前提になる研究は進めております。勝手な言いぐさで恐縮ですが、編集者の御矜持にお応えできるほどの内容を期したいと存じております。
 ちなみに、もう15年もお待たせしてしまい、その間に元木先生や美川先生の御著書が刊行された、某ブックスの原稿はすでに8割方の完成を見ております。

 ゼミも私自身の研究も多くの方々に支えられていることを痛切に実感いたしております。本年もまた、どうぞ宜しくお願い申し上げる次第です。

ゼミ、この一年

No.9810

 <1月> 大河ドラマ「平清盛」放送開始にともない、掲示板へのアクセス急増
 <3月> 4回生卒業。全員、希望通りの就職(都市銀行など)&進学
      『紫苑』第10号刊行(編集の仕事を終えた山本編集長は吉田山の麓へ! 後任に池嶋さん)
  <6月>  研究所公開講座。講師の服藤先生・元木先生らとの懇談会・懇親会
      六波羅・法住寺殿周辺の史跡散歩
 <7月> 京都文博主催の歴史散歩に参加
 <9月> 学習院大学兵藤ゼミと六波羅・法住寺殿周辺の史跡散歩 
      1・3回生、個人参加の形で宮島・岩国旅行(幹事滝沢さんの勲功!)
 <10月> 日野・醍醐方面史跡散歩
 <11月> 伏見区主催の歴史散歩(もちもちぃんウォーク)に参加

 以上、ざっと思い出した範囲で。
 ビッグニュースと言えば、このゼミで知り合いになった同士の初の御結婚。そして、古参メンバーでお母さんになった人が増えたことでしょうか。
 古参メンバーは、続々と研究・教育職に就任。私の古巣に就職した方もおられます。
 メンバーからは、すでに博士号取得者が一名出ていますが、来年も予定あり。

 > これから論文を書く学部生諸姉 
 数ヶ月前、ようやく卒論を書き始めた学生さんから、こんなメッセージをいただきました。
 「論文を書くのを職業にしてる先生方を尊敬! 始めたけど、ぜんぜん書けませ~ん」
御参考までに。

 > 師範代の岩田君をはじめ、ゼミメンバー・関係者の皆さん
 この一年、ありがとうございました。なんとか乗り切れたようです。
 一年の思い出や反省など・・・、何かありましたらお願いいたします。  
編集:2012/12/30(Sun) 16:05

ゼミの一年

No.9811

 本年も多くの皆様に支えられながら、ゼミの活動を行うことができました。ゼミに関わっていただきました方々に御礼申し上げます。
 毎週開催中の『吾妻鏡』も、山本陽一郎さんたちが始められてから来年で十年となります。これからも、参加してくださる方がおられる限りは続けていければと思いますので、よろしくお願いいたします。

 新年も皆様にとって実り多く幸溢れる年となりますよう、お祈り申し上げながら、新年の『吾妻鏡』のご案内です。

 日時:2013年1月8日(火)午後3時頃~(予定)
 場所:京都女子大学L校舎 3階 共同研究室
 範囲:元久二年(1205)十一月十五日・二十日、十二月二日・二十四日の各条
     元久三年(建永元年、1206)正月十二日・二十七日、二月四日・二十日・二十二日、三月十二日・十三日、五月六日、六月十六日・二十一日、七月一日・三日、十月二十日・二十四日、十一月十八日・二十日、十二月二十三日の各条

 2013年1月は、8日・15日・22日に開催予定です。

 火曜日の『吾妻鏡』講読会は、参加者のみなさんの自主的な積極性によって支えられております。
 基礎的な史料読解のニーズにも対応しておりますので、新年から何か新しいことを始めてみようという方は、まずは見学からでも、どうぞお気軽にご参加ください。

今年の大河ドラマに拘りをもつ方へ

No.9813

 平清盛と時代背景については、最新の研究成果に基づきながら、分かりやすく叙述してある、この本を責任を持ってお薦めします。 ↓
 岩田 慎平『平清盛』(新人物往来社、¥ 1,575 )

 別の場所でも、この本の著者は実にいいことを「呟いて」います。ぜひ、その場所を探してお読みになってみてください。