阿波民部大夫成良がどうして「田口成良」になったのか?

No.10044

 Facebookにも書いたのですが、公開で、乞う御教示!

 平清盛の有力家人に田口成良(たぐちしげよし)という阿波の武士がいます。『国史大辞典』にも立項されていますから、けっこう有名なのだと思います。ところが、この人が「田口」を称した形跡は同時代史料は言うに及ばず、『平家物語』にも『吾妻鏡』にも見当たらないのです。

 これらの文献に「阿波民部大夫」という呼称で登場するこの人物が、なぜ「田口成良」になってしまい、かくも通説のように流布してしまったのか、あるいは成良(重能)に田口を冠した史料を御存知の方がおられましたら是非ともお教え下さい。

 今のところ判明しているのは、彰考館本の『鎌倉大日記』に成良の子の範能に田口の名字が付せられていることくらいです。

 それにしても、不可解な話です。同学諸姉兄のみならず軍記を専攻されている方などからの情報を期待しています。

どうか、よろしくお願い致します。

御教示を頂きました。

No.10045

 篤学の若い歴史学の研究者からメールで御教示を頂くことが出来ました。
 あつく、お礼を申し上げます。

 猛暑ゆえ、引き籠もってPCに向かってばかり。運動不足で太り、かつ目が疲れて困ります。せめて、仕事が捗ればよいのですが。

 みなさんは、いかがお過ごしでしょうか?

採点はおわりました。 が、 「俺たちにお盆休みはない」。

No.10043

 レポートの採点が終わりました。
 世は格差社会といわれますが、レポートの内容もレベルの差が極めて大きい。
  
  大学できちんと学問を楽しめている意欲ある学生たちに幸いあれ!

 ちなみに、史学科以外の履修生の多くが「歴史的に自分の専攻に関わる事象を考える機会がなかったので、興味深く受講した」とか「物事を歴史的に考えることの必要性を理解できた」という感想を述べていました。
 これは講義が一定の成功を収めたことの証になると思います。とくに現代社会学部の学生さんが、「現代を知るためには歴史を踏まえなければならない」ということを強く認識してくれたのは嬉しいところでした。

 採点が終わったのでWeb入力しようと思ったら、あいにく今日は大学が停電で不可。これから、論文執筆という「研究者としての本務」に取りかかれると思っていたのですが、叶いませんでした。
 私は、ほかに何かやらなければならない事があると、研究に集中できない性格なので困ります。これから人文系の研究者になろうという人は、今後の社会環境を考えると、こういう性格では生き延びられないでしょう。

 論文を早めに仕上げることが出来たら、もう8割方書き上げてあるのに一年ほどの間棚上げになっている九州の武士をテーマにした原稿の執筆を再開したいと考えているのですが、どうなることやらです。

 【追記】
 ☆ 青山学院女子短期大学の清水眞澄先生より、御高論「願文を読む(2)-『平清盛公願書和解』の成立と読みをめぐって-」(『聖徳大学 言語文化研究所 論叢』20)・「「師子」と幸若舞曲-『元徳元年三月日日吉社幷叡山行幸記』を始点として-」(前田雅之編『もう一つの古典知』勉誠出版)・「軍神と歌神の中世-『太平記』と住吉神主家資料をめぐって-」(磯水絵編『論集 文学と音楽史 詩歌管弦の世界』和泉書院)ならびに、御高論「芸名の系譜-舞童から幸若丸まで-」掲載の『日本文学』62-7を御恵送頂きました。
 清水先生に、あつく御礼を申し上げます。

ダブルスタンダードの国

No.10042

 暦の上ではもう「立秋」ですって。
 関東では些か気温の低い日もあったようですが、京都は連日の蒸し風呂です。
 蒸し風呂の中で、運動不足。仕事に疲れるとA地下で仕入れたキャラメルなど甘いものに手が出る。これでは血糖値も悪玉コレステロールも、さらには腹囲も増えていくばかり。わかっちやいるけどやめられません。
 ゆえに、体調よろしからず。

 未だにレポートの評価中。力作が多いので、熟読しています。中には論文レベルのものもあって、驚いています。さすがは京女生。
 そんなわけで、まだ夏休み気分にはまったく浸れておりません。

 ☆ 中国から戻られた金澤正大先生より、御高論「武蔵武士足立遠元」(『政治経済史学』554)を御恵送頂きました。
 金澤先生に、あつく御礼を申し上げます。

☆ 清泉女子大学の清水由美子先生より、御高論「崩壊した母性-平時子と北条政子の母性をめぐって-」(『清泉女子大学人文科学研究所紀要』34)・「西大寺流律宗の諸寺院と『平家物語』」(『中央大学文学部紀要 言語・文学・文化』111)を御恵送頂きました。
 清水先生に、あつく御礼を申し上げます。

 ☆ 國學院大学の森幸夫先生より、御高論「室町幕府奉行人飯尾為種考」(『国史学』210)ならびに御高論「新刊紹介 湯山学著『鎌倉府の研究』」掲載の『ぶい&ぶい』第24号を御恵送頂きました。
 森先生に、あつく御礼を申し上げます。

『紫苑』原稿募集のお知らせ

No.10040

毎日暑い日が続きますが、皆様いかがお過ごしでしょうか。

本日は『紫苑』の原稿募集についてのお知らせです。『紫苑』の第十二号に原稿を書いて下さる方を募集しております。積極的な参加をお待ちしております。

原稿を執筆して下さる方は池嶋(上記PCアドレスもしくは携帯)までご連絡下さい。

『紫苑』の投稿規定も掲載しておきます。

《投稿規定》
枚数:
 注を含め四〇〇字詰原稿用紙に換算して七十枚以内とします。但し、分量については適宜相談に応じます。

原稿:
 ・種類は、論文・研究ノートなど。縦書き・完全原稿とします。
 ・ワープロ原稿の場合は、四〇〇字の倍数、縦書きで打ち出してください。投稿の際は、原稿を保存したメディア(フロッピー、CD-R、など)一部を添え、使用ワープロの機種名・ソフト名を明示して下さい。
 ・手書き原稿の場合は、四〇〇字詰または二〇〇字詰原稿用紙に、本文・注とも一マス一字、縦書き、楷書で、鉛筆書きは不可とします。
 ・注は本文末に一括して、(1)、(2)、…のように付けて下さい。
 ・年号を用いる場合は、なるべく西暦併用でお願いします。
 ・図表・写真(いずれも鮮明なものに限ります)の添付は刷り上がり時の大きさを勘案して字数に換算します。これらを添付する場合は、おおまかな掲載場所を指示してください。
 ・編集作業の迅速化のため、住所・氏名(ふりがな)・目次を記した別紙一枚を添えて下さい。

採否:
 編集担当者が掲載の可否を審査いたします。

著作権・公開の確認:
 本誌掲載の論文・研究ノート等の著作権は著者に帰属するものとします。ただし、宗教・文化研究所ゼミナールは、本誌に掲載された論文・研究ノート等を電子化または複製の形態などで公開する権利を有するものとします。執筆者はこれに同意して、投稿されるものとします。やむをえない事情により電子化または複製による公開について許諾できない場合は、採用が決定した段階で宗教・文化研究所ゼミナールにお申し出ください。

締め切り:九月三十日
 備考:
 ・他誌への二重投稿はご遠慮ください。
 ・掲載後一年以内の他への転載は控えていただきます。

では宜しくお願いします。
編集:2013/08/06(Tue) 10:57

『紫苑』第12号と秋の史跡散歩の企画について。

No.10041

 池嶋さん、ありがとうございました。
 今年度も、編集長、よろしくお願い致します。

 今のところは、投稿希望の確認の段階ですね。池嶋さんの書いて下さった締切の9月30日というのは、その締切のことで、原稿そのものの締切ではありませんので、念のため。

 ところで、先日、昨年の大河ドラマの時代考証を担当された髙橋昌明先生より、木幡浄妙寺跡や摂関家の墓所の営まれた宇治陵周辺の史跡見学のリクエストを頂きました。今は季節が悪いので、地元の岩田君の御協力も仰いで、この秋にゼミの史跡見学会(史跡散歩)という形で実現をはかろうと考えています。「基礎演習Ⅱ」・「演習Ⅱ」やキャンパスプラザの履修生にも声をかけるつもりです。
 すこし宇治も含めて半日くらいの日程になろうかと思います。
 具体的なことは、9月にゼミが再開されてから決定するつもりです。
 『紫苑』には、この史跡散歩の記録も載せたいですね。

 なお、その史跡散歩の休憩時、あるいは散会後に高橋先生の提唱される「六波羅幕府論」について議論するのも一興かと考えております。
 ちなみに、私は清盛の六波羅政権を「幕府」とみることには慎重な立場をとっております。
 結構、激論になるかも知れませんよ。 

  今日は昔の夏が帰って来たようだね。

No.10038

 昔、私が青山学院大学の史学科で演習を担当していたときのゼミ生だった菅沼君がFacebookに書き込まれた一言ですが、何だかとても心を揺す振られました。
 こんなセリフを吐いてみたいと思います。還暦を過ぎたオヤジの感懐です。

 ところで、そのFacebookにも書いたのですが、私の最初の論文集『坂東武士団の成立と発展』の再刊が実現する運びとなりました。来週はじめに、新版の初校ゲラと「再刊にさいしての「あとがき」」を出版社にお送りする予定。その後、索引が付され、校正を重ねたら刊行という運びになるのだと思います。どんな姿であらわれるのか楽しみです。
 ちなみに、「そんな本、見たこともないぞ」と言われる方も多いと思いますので、旧版の写真をFacebookに貼り付けておきました。
編集:2013/08/03(Sat) 18:12

あ~(採点終わったら)夏休み

No.10039

 頼家・実朝将軍期の振り返りをやっていましたが、サマーブレイクということで『吾妻鏡』講読会も一旦お休みをいただきます。いちどサラッと読んだところも、あとから読み直して考えてみると、いろいろ気付くことも多いようですね。

 再開は9月19日の予定ですが、その日はおもに夏の間の出来事などについての意見交換や、後期に向けての種々ご相談でも致しましょう。さらに余裕があれば、ちょっと読みましょう。

 日時:2013年9月19日(木)午後3時頃~(予定)

 場所:京都女子大学L校舎 3階 共同研究室
 範囲:秋学期に向けての試運転

 ※しばらく“振り返り”を続けていきますが、それが終わった後の範囲は以下の通りです。
     承元四年(1210)正月一日、二月五日・十日・二十一日、三月十四日・二十二日、四月九日・十九日、五月六日・十一日・十四日・二十一日・二十五日、六月三日・十二日・十三日・二十日、七月八日・二十日、八月九日・十二日・十六日、九月十一日・十四日・三十日、十月十二日・十三日・十五日、十一月二十二日・二十三日・二十四日、十二月五日・二十一日の各条
     承元五年(建暦元年、1211)正月十日、閏正月九日、二月二十二日、三月十九日、四月二日・十三日・二十九日、五月四日・十日・十九日、六月七日・二十一日・二十六日、七月四日・十一日、九月十二日・十五日・二十二日、十月十三日・十九日・二十日・二十二日、十一月二日・三日・四日・二十日、十二月一日・十日・十七日・二十日・二十七日の各条

 『吾妻鏡』講読会は基礎的な史料読解のニーズにも対応しておりますので、再開する頃には秋を感じさせる季節になっていてほしいところですが、そんな季節に何か新しいことを始めてみようという方は、まずは見学からでも、どうぞお気軽にご参加ください。京都女子大の方限定ではありませんよ。

もう8月。現社1回生への期待&前期ゼミ史料講読会終了

No.10037

 「基礎演習Ⅰ」のレポート、全て提出されました。
 ゼミ発表の時、ちょっと突っ込み不足を感じていましたので、レポートの出来を心配していたのですが、読んでみると発表の時とは格段の差で、よくテーマを追いかけた内容になっており、なかなかの底力を感じました。

 本日で前期の研究所ゼミ史料(『吾妻鏡』)講読会は終了。とくに頼家政権期の公武関係について、史料の読みを深める中から浮かび上がるもの見えてまいりました。そして、「社会史」隆盛の時代に着目されていたことについて、別の側面から再評価してみる必要を認識することが出来たのも収穫といえると思います。
 牽引してくれた岩田君に感謝したいと思います。
 次回は9月19日の予定ですが、それまでの間に、また何か勉強会を企画することが出来ればよいと思っています。
 メンバーからの積極的な御提案をお待ちします。

 私は昨年度の研究所共同研究の成果をまとめる作業にかからなければなりません。とりあえず、12世紀末の阿波における最有力の武士田口成良(ただし「田口」は俗称)の存在形態について考えます。

 ☆ 青山学院大学の藤本頼人先生より、御高論「河川交通とその担い手-中世前期の吉野川を起点として-」収録の、小野正敏ほか編『水の中世』( 高志書院)を御恵送頂きました。
 御高論は中世前期における阿波国吉野川の交通をテーマにされているので、上記共同研究を進める際、大いに参考にさせて頂けるものと存じます。
 藤本先生に、あつく御礼を申し上げます。

 【追記】 
 ☆ 栃木県立博物館の江田郁夫先生より、御高論「応永の乱と奥州長沼氏-応永の乱後の奥州支配体制をめぐって-」(『栃木県立博物館研究紀要-人文-』30)を御恵送頂きました。
 江田先生に、あつくお礼を申し上げます。

8月10日~18日のご連絡について

No.10035

 ふだん連絡先としてご利用頂いている私のE・メールアドレスですが、今夏に京都女子大学で実施される受電設備点検及びサーバ機器の更新工事に伴い、下記の期間は終日、ご利用頂けなくなりますのでご注意下さい。
  日 程:平成25年8月10日(土)~8月18日(日)
この間のご連絡は、自宅PCのアドレス(学会誌などの名簿に掲載)宛でお願い申し上げます。

E・メール停止期間の訂正&高橋慎一朗先生の御新著拝受

No.10036

 上記の件について訂正の旨、大学からメールでの連絡がありました。

 すなわち、8月10日(土)は、停電のため全てのサービスが学内・学外を問わず利用できなくなりますが、当初11日から18日までの間利用できなくなる予定であったメールサービスは工事工程の見直しにより最大24時間の利用停止になったとのことです。

 日 時:平成25年8月11日(日)午前9時~翌12日午前9時まで
 (作業終了次第サービスを再開します)
 ただし、工事工程を分散させたため、9月上旬に再度利用停止を予定しているとのこと。
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 ☆ 東京大学史料編纂所の高橋慎一朗先生より、新刊の御高著『北条時頼』(人物叢書 吉川弘文館)を御恵送頂きました。
 多くの方が待望していた本です。
 私の恩師である貫達人先生にも、ぜひ読んで頂きたかったと思いました。
 うれしい、業績の御紹介もありました。
 高橋先生に、あつくお礼を申し上げます。

野口担当の「基礎演習Ⅰ」「基礎演習Ⅱ」「演習Ⅱ」履修者へ

No.10034


 本日締め切りの「基礎演習Ⅰ」のレポートですが、提出は私の研究室ドア横のBOXにお願いいたします。不在でも宗教教育センターの方にお預けする必要はありません。

 後期、「基礎演習Ⅱ」と「演習Ⅱ」の履修予定者のみなさんには、すでに後期の行事に関するメールを送信いたしましたので確認をお願いいたします。

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 研究所ゼミの機関誌『紫苑』第12号(来春刊行)に投稿を希望される方は、出来るだけ早々のうちに、編集長の池嶋さんか私にご連絡下さるように、お願いいたします。
 研究成果に限らず、近況、エッセイなど、日頃お世話になっている先生方や古参メンバーからの御投稿、歓迎いたします。

サイトアドレス変更告知のおねがい

No.10032

 急にドメイン名(サイトアドレス)の変更の必要が生じたため、御迷惑をおかけして申し訳ありません。
 アクセス数が一日あたりにして、10分の一ほどに減少しているので、諸連絡の徹底などについて心配致しております。

 Googleなどには、数日後に反映されますので、検索していただければ、アクセスはできると思いますが、ブックマークやお気に入りなどで登録されている場合には、変更が必要となります。
 お手数をおかけ致しますが、よろしく御対応下さいますようにお願い申し上げます。

 管理人の鈴木君からはFacebookで周知をはかって頂いておりますが、ほかに告知する手段もありませんので、お知り合いの間で、御連絡いただければ幸いとするところです。

 ☆ 愛知大学の山田邦明先生より、新刊の御高著『日本史のなかの戦国時代』(日本史リブレット 山川出版社)を御恵送頂きました。
 現代が、中世につながる時代が解体して、新しい時代が生まれる転換点にあたるという御指摘には、心底同感致しました。
 山田先生に、あつくお礼を申し上げます。

編集:2013/07/28(Sun) 13:23

闇の先に見える光明

No.10033

 世の中、「一寸先は闇」などと申しますが、この掲示板、最近は、アクセス数が急増して、書き込みの甲斐もあるものだと喜んでいたのですが、思わぬアクシデント。
 ところが、ものごとは表裏あるもので、こうした事態に、この掲示板をご覧下さっている諸姉兄がどのように対応されたのかを知ることで、情報への対応のあり方について学ばせて頂くことが出来ました。

 当方といたしましても、一応、対策としてFacebookに書き込んだり、アドレス帳を利用して日頃メールをやりとりしている方たちにはお知らせしたのですが(だいぶ戻ってきました。みなさん、結構、頻繁にアドレスを変えておられるようですね)、それに対する返信の中に、「すでに検索エンジンを利用して、新しいアドレスを割り出した」というものがあって驚かされました。どうやったのか、教えて頂きたいところです。

 この機会に、閲覧して下さる方が淘汰される結果になったことは間違いありません。しかし、「ちょっと面白いから」とご覧頂いている方々の存在も重要で、これまで、公開講座のご案内など、そのような方たちに向けての情報発信の場としても、(些か手前味噌ですが)お役に立てていた部分もあろうかと思いますので、その点はやはり残念です。

 というわけですので、HP・ブログ・ツィッター・Facebookなどを活用されている皆様には、ぜひ当方HPのアドレス変更の周知について御助力をお願い申し上げる次第です。

 大津雄一著『『平家物語』の再誕 創られた国民叙事詩』読了

No.10030

 先日、NHK出版の石浜さんからお送り頂いた大津雄一著『『平家物語』の再誕』。一気に読了致しました。

 西欧のもつ国民叙事詩を日本にも、ということで『平家物語』の叙事詩評価がはかられたというのは、まさに「騎士道」に対抗して創られた「武士道」と同じ。戦後も日本民族の独立を図るための英雄叙事詩として復活し、それにオーバーラップするように展開した国民的歴史学運動の中で武士の英雄化がはかられたという理解には納得。通説的な成立期武士論の陥穽について、これまでとは異なった見方を提示して頂けました。

 戦後歴史学の担い手として活躍された研究者(我々よりも一世代上の)の方たちからは、内乱期の事件や人物について、時に普段の理論的な言辞とは似つかわしくないロマンティックな認識を示されることがあるのですが、その理由もよく分かりました。もっとも、私なども同様なのかも知れませんが。

 それにしても、すでに21世紀も10年以上の歳月が経過したとはいえ、戦後の時期に至る多くの『平家物語』研究者の思想的評価を述べるのはかなり勇気の要ることではなかったのかと想像されます。

 私が国文学(軍記)の研究者の方たちに親しくして頂けるようになったのは、この20年ほどの間のことですが、歴史学の学会の大会が組合の集会の如くあるのに対して、国文学の学会の大会は宛も大企業の株主総会の如き様子で驚いたり、国文の世界では師弟関係が厳格であることや若い方たちが礼儀正しいことなどに遭遇し、その理由についていろいろ思いを巡らせておりましたが、そんなことにも回答を与えてくれたと思います。

 161ページに掲げられた石山徹郎による「国文学会の諸学派」は、今日の国文学研究者の色分けにも適用できそうで、参考になりました。同じ国文学の研究者といっても、かなりタイプの異なる先生方がおられて対応に窮することがありますので。
 近年の歴史学も、なんだかよく分からなくなって参りましたが、個々の研究者のスタンスは、国文学よりは分かりやすいのではないでしょうか。

 私は、若いころ、(幸か不幸か?)戦後歴史学とは外れたところで研究生活を送りましたので、「英雄時代論争」を知らず、その話題を提示した先輩の研究者から唖然とされた経験があるのですが、本書で、そのあたりの事情もよくつかむことが出来ました。

 近代軍国国家における国民教化の材料として『太平記』がいかに利用されたのか、また国文学の学界が歴史学ほど戦後に変化(反省)が見られないことなどについては、かつて同じ職場におられた中村格先生から御教示を頂いており、それらを踏まえて「近代国民道徳としての「武士」認識-軍国国家形成の前提-」(京都女子大学『現代社会研究』創刊号、2001年)なる拙文を纏めたこともあるのですが、この本に接して、またよい勉強をさせて頂くことが出来ました。

 いずれにしても、この本は武士論・鎌倉幕府成立史など中世前期の政治史を専攻する方には必読でしょう。いつまで経っても改まらない通説的認識(著者も指摘されていますが、昨年の大河ドラマのような)の背景がよく理解出来ると思います。

 私に課せられた課題は、やはりあくまでも基礎的な「事実」を解明していくこと、これに尽きると思いました。物語は「事実」に乖離するものですから、一部の国文学の研究者のお役にも立てるところがあるのではないか思うのです。
編集:2013/07/26(Fri) 01:15

『吾妻鏡』の夏物語

No.10031

 前回の告知で「8月は『吾妻鏡』もお休みさせていただく予定です。」と書いてしまいましたが、やります。開始時間をいつもより早める予定ですので、お間違えのないようお願い致します。

 日時:2013年8月1日(木)午後1時頃~(予定)

 場所:京都女子大学L校舎 3階 共同研究室
 範囲:頼家・実朝期の振り返り

 ※しばらく“振り返り”を続けていきますが、それが終わった後の範囲は以下の通りです。
     承元四年(1210)正月一日、二月五日・十日・二十一日、三月十四日・二十二日、四月九日・十九日、五月六日・十一日・十四日・二十一日・二十五日、六月三日・十二日・十三日・二十日、七月八日・二十日、八月九日・十二日・十六日、九月十一日・十四日・三十日、十月十二日・十三日・十五日、十一月二十二日・二十三日・二十四日、十二月五日・二十一日の各条
     承元五年(建暦元年、1211)正月十日、閏正月九日、二月二十二日、三月十九日、四月二日・十三日・二十九日、五月四日・十日・十九日、六月七日・二十一日・二十六日、七月四日・十一日、九月十二日・十五日・二十二日、十月十三日・十九日・二十日・二十二日、十一月二日・三日・四日・二十日、十二月一日・十日・十七日・二十日・二十七日の各条

 『吾妻鏡』講読会は基礎的な史料読解のニーズにも対応しておりますので、本格的な夏到来を感じさせる季節に何か新しいことを始めてみようという方は、まずは見学からでも、どうぞお気軽にご参加ください。京都女子大の方限定ではありませんよ。