>戸田さん
私が博士課程修了したのは、1988年です。その頃は、まだ日本史では課程博士はほとんど考えられず、私も常識的に博士号取得せずに「指導認定退学」というやつをしました。当時は、実はこの名称も知らず、実際に10年後の1998年に論文博士になるまで、「単位取得」だと思いこんでおりました。
実は私の博士号というのは、自分でも課程博士とどう違うのかわかりません。大学院以来発表してきた論文がたまり、機会をえて今年薗田さんの就職された臨川書店から論文集として出版できたのが、1996年。それだったら、論文博士もこれでとっておくか、ということで審査をお願いしたら、幸運にも学位をいただいた、という経過です。
あとで聞くと、博士号をめぐっては、指導教授との関係とか、出身大学との関係とか、いろいろがトラブルがつきもので、ほんとうに神経をつかうものらしいのですが、私の場合ほんとうに幸運で、そういったことがある、ということをあとで知った次第なのです。ですから、「自分の出身大学では、そんなかたちでは論文博士認めてくれない」なんて話もよく聞きます。「既発表論文ではだめだ」「もう出版した本ではだめだ」なんてところもあるのですね。
こういう経過を、時間を限定されてやれ、といわれたら、それこそ大変です。
ですから、今の若い人たちのおかれた環境には、ほんとうに同情します。
>大学教員への道が非常に狭くなり、アドバンテージだった課程博士号はスタートラインになっている現在。
これその通りなんですね。私は、ずいぶん遅れたとはいえ、博士号なしで就職できた、最後の世代かもしれません。しかし、大学教員への道はほんとうに狭くなっています。
12年前に私が摂南大学につとめたときの担当科目と今年の担当科目を比較すると、実感できるかもしれませんので、一例としてあげておきます。
1993年 国際言語文化学部 所属
日本史学(通年) 歴史学(通年) 歴史学(薬学部)(通年) 歴史学(法学部)(通年) 文化演習(通年) 卒業研究(通年)
2005年 外国語学部 所属
国際文化概論(日本)(半期) 国際教養論(文化)(半期) 日本史学(半期)
日米関係史(半期) 日米比較文化(半期) 日米比較文化特殊講義(半期)
歴史学(工学部)Ⅰ(半期) 歴史学(工学部)Ⅱ(半期)
教養特別講義「社会と人権」(半期)
基礎ゼミ(半期) プレゼミⅠ(半期) プレゼミⅡ(半期)
文化演習(通年) 卒業研究(通年)
12年前は、いま見ると牧歌的で、いわゆる全学教養科目も担当する日本史の教員というかたちです。
ですから、日本中世史の上島有先生の退職後、私は採用されたわけです。
いまは、セメスター制により、半期科目が大半になり、科目の種類が激増。
毎週、これの内容はどんなだったか、としばらく考えてから、予習に入ります。
まあ、今年から外国語学部に名称変更されたということもありますが、
この傾向は数年前からのことです。中堅以下の大学が、なんらかの資格などの
取得を目的にしないと(ちなみにうちではTOEICという英語実用検定)
学生が集められない(ほんとうかどうかわかりませんが)、ということで、
それをメインにし、それだけでは専門学校との差異化がはかれないので、
やむをえず「幅広い」教養の一つとして、私の担当するような科目もある、
ということなのです。あくまでも「幅広い」教養ですから、日本史でなくても、
かまわない。まあ外国語をやるには、日本のこともよく知っとかなくてはね、
ということです。本音をいえば、そういった教員の生首は斬れないしね、
ということなんだろうな、と私は内心ふてくされています。
しかも、日本中世史の内容である必要がある科目は皆無。それどころが、
日本史である必要がある科目は、なんと日本史学(半期)のみ。
それどころか、日本中世史の内容ではぜったいできない科目、
日米関係史(半期) 日米比較文化(半期) 日米比較文化特殊講義(半期)
とその3倍もあるのです。
それでも、専任の大学教員の職があるのは、非常にめぐまれているので、
いっしょうけんめい給料分は働いていますが、
ときどき、ひどく虚しく感じます。私でなくてもいいんだよね。これ。
というか、近現代史の人のほうが向いているし、
日米比較文化、日米比較文化特殊講義なんて、前は英語の先生がやっていた科目です。
私の本務校は、まあ中堅のごく普通のまだ定員割れはしていない私大です。
そこでの現状というのが、まさに日本史、とくに前近代史の前途を、
ひどく暗くしている感がするのです。いかがでしょうか。
ちなみに、日米関係史は、ペリー来航から日中戦争期まで。
日米比較文化は、太平洋戦争 日米比較文化特殊講義は戦後占領期からベトナム戦争
を扱っています。そのフラストレーションのはけ口が「美川圭の辛口映画批評」です。
http://www.avis.ne.jp/~iwasaka/mikawacinema.htm