既成のイメージ
野口実
No.302
芸能話に花が咲き、アクセス3000も間近ですね。こうなると、直接の対話が必要で、元木先生も熊野にお出でになれれば良いのに、とつくづく思っております。明晩、那智勝浦のホテル浦島においでになりませんか?
近藤先生のおっしゃるとおり、義経は歌舞伎役者みたいな人にはもう演じて貰いたくありませんね。しかし、人口に膾炙している既成のイメージというのは恐ろしいもので、そこからはずれると視聴率が極端に低くなるようです。『太平記』も社会史全盛の時期に、戦後歴史学のリーダー永原慶二先生の考証のもとで放映され、絵巻にあるような場面が出てきたり、出産や元服といった儀式の様子はほぼ忠実に描かれ、片岡鶴太郎の北條高時やフランキー堺の平頼綱のような適材適所の配役もあって楽しめたのですが、どうも後半からつまらなくなってしまいました。その背景には、大楠公史観とでも言いましょうか、皇国史観教育を受けた人たちのイメージとのあまりに大きな乖離のあったことが指摘できるようです。上横手先生も、以前、NHK教育テレビの太平記の講座で護良親王をモリヨシシンノウと呼んだことで、大きな反発を視聴者から受けたそうです。だから、義経も人選は難しいでしょうね。大方の義経ファンというのは、既成のイメージに乗っかっているでしょうから。こうしたことは、若い世代でも再生産されていて、その良い例が安倍晴明でしょう。この場合、皇国史観ではなくて、漫画・オカルト小説史観によるものとでも言えましょうか。ちなみに、安倍晴明展開催中の京都文化博物館は大入りで、これまで閑古鳥の鳴く中にいたコンパニオンさんたちが、かつて見せたことのない笑顔をふりまいているとの情報が元同僚から届いております。
まあ、東国武士は無骨で粗野で純朴で、京都の公家は女々しくて白粉だらけで、気持ち悪い・・・といった既成イメージをNHKさんが、いつになったら克服してくださるのか楽しみでありますね。
こうしたことに対して、研究者は非力ですが、でも、大河ドラマはだめでもNHKブックスがありますよね、石浜さん。おっと、藪蛇でした。
とはいえ、再来年の『義経』、近世・近代の男社会を中世前期に引き写したかたちでホームドラマに仕立てることだけは止めていただきたいと切に願うものであります。なにしろ、今日、社会人向けの歴史教育に果たす大河ドラマの役割は甚大なのですから。
などと、遊んでいて、ちっとも書評が進まず、焦燥にかられる毎日ですが、そんな中、熊野旅行の成功のために地道な努力をされておられる、永富さんにお詫びとお礼を申し上げたいと思います。