ご挨拶

元木泰雄
No.9814

 先ほどからご挨拶を書いているのですが、一回目は戻るを押して消滅。二回目はエラー表示が出てまたまた消滅。書き込みに費やした一時間半が消えてしまいました。

 さりとて、ここで屈するわけにはまいりません。
 三度目の書き込みです。

 野口先生、野口ゼミの皆さん、あけましておめでとうございます。
 本年も何卒よろしくお願い申し上げます。

 昨年の公開講座では、初の再登壇という栄誉に浴し、まことにうれしく存じました。ところが、家族の重病に加え、自身の腰痛という思いもかけない事態に直面、果たして当日伺えるかどうかという危機的状況に陥ってしまいました。しかし、奇跡的に病人も、当方の腰も小康を得たので、ご迷惑をおかけしないで済みました。話のほうは、自分で言うのも何ですが、まさに快心の講演であったと思います。野口先生から頂いた課題も、何とか盛り込めたも自負しております。
 事前学習をしておられない方には理解は難しかったかもしれません。私は野口先生をお相手に話をいたしました。その意味は後で申し上げます。
 
 野口先生とは、平先生とともに『中世の人物』の編纂もご一緒致しました。いろいろありましたが、何とか第一巻は近日刊行というところに漕ぎ付けました。野心作揃いだけに、大きな話題になることは疑いないと思います。
 残念ながら大河ドラマ放送中の2012年内刊行という目論見は失敗でしたが、あのドラマでは販売促進にはつながらなかったでしょうね(笑)。
 
 その大河ドラマ、多くの書き込みがありますが、本当にひどいドラマでした。日本の劣化を象徴する内容と言えると思います。歴史がどうのという以前に、あまりにお粗末な脚本で、見るに堪えないドラマでした。よくまあ視聴率が9パーセントもあったものです。出演者の親類縁者がご覧になったのでしょうか?民放の知人曰く「民放のドラマはスポンサーのお金で作るから、失敗しても許される面もあるが、受信料であんなドラマを作られたらたまらんね」。
 結局、清盛のどこに魅力があるのか、何をした人物なのかさっぱりわからないままでした。「武士の世を作る」というセリフが多用されましたが、具体的には福原遷都や日宋貿易の話ばかり。何が武士の世なのか、視聴者には理解できません。脚本家が清盛の歴史的役割を理解しないまま、通説的な貴族対武士という構図に当てはめようとするので、こんなおかしなことになるのではないでしょうか。
 以前出演した、「歴史秘話何とか・・」という番組で、平氏が取り上げられた際、篤学で最新研究を良くご存じのディレクターさんから充実したインタビューを受けたことがありました。ところが、出来上がってみると通説通りのつまらない内容で、当方のインタビューなど殆ど消えておりました。プロデューサーが「視聴者のレベルに合わせた」とのこと。視聴者はアホだからこんなものでよいという発想でした。これでは、最新の成果を伝えることなど絶対にできないことになります。
 今回の大河でも、貴族と戦う武士という古めかしい構図が導入された結果、地方武士を組織する頼朝と、対照的に結局は貴族化して滅びる平氏というつまらない描き方になり、清盛の斬新な位置づけができなくなった様に思われます。

 相手があほだからこんなものでよい、というのは大河だけの問題ではありません。高名な歴史家の著作にも、実証、論理、先行研究の理解がでたらめなものをお見受けします。一般読者相手だからと言ってこんなことが許されるはずがありません。
 さらに某大学の総長に至っては、最近の学生はアホであるから、全学共通科目(一般教養)の担当者は、研究していない教員で構わない」などと言い出す始末。
 今水準が低いなら、それに迎合するのではなく、水準を上げることこそが大事ではないでしょうか。それなくして先人が築いた業績を継承することなど、できるはずがありません。
 現状に迎合、妥協する傾向が今の日本を覆っているように思います。これが「劣化」の原因であることはいうまでもないでしょう。
 一般向きの講演ではありますが、公開講座に際し、あえて最新の成果を盛り込んだ難しいお話をした背景にはそういう意図がありました。

 それにしましても、政治、大学、大河ドラマと、日本の劣化を痛感させられた一年でした。
 自身の成長と日本の発展が重なった幸福な時代が過ぎ、自身の衰えと日本の衰退が重なることになりました。八方ふさがりの世情を眺めておりますと、鎌倉時代の末期もこんな状況だったのではないかと絶望的な気分になります。
 ただ、正しい学問、大学の在り方を次世代に伝えることは我々の使命だと思います。そのために全力を尽くしたいと存じます。
 
 野口先生、ゼミの皆さん、本年も何卒よろしくお願い申し上げます。
 2013年が、すべての人々にとって良い年になりますように。
 
  

 
編集:2013/01/03(Thu) 23:49

 まさに「心中領状更無異議」(『吾妻鏡』治承4,9,9条)の気持ちです。

No.9815

 年頭から元木先生のメッセージをいただいて、「こいつは春から縁起がいいわい」であります。

 昨年は大変な時に当方の公開講座へ御出講下さり、ありがとうございました。目論見通りの大盛況でした。服藤早苗先生とのコラボレーションということもあり、あれだけ多くの聴講の方が集まった講座は数少ないだろうと思います。

 学問・研究、さらには文化環境全般にわたる劣化の進行は、まったく仰るとおりだと思います。日本の大学のあり方については、元木先生と私の共通する体験から、本当に切実なものを感じております。もはや、老耄となりましたので、身の回りで対処できる範囲でのことながら、全力で対応してまいりたいと思います。

 その点に於いて、清文堂から刊行される、元木プロジェクトこと、『中世の人物 京・鎌倉の時代』(全三巻)の第二巻に編者として参加させていただけたのは僥倖と言わざるを得ません。元木先生御担当の第一巻「保元・平治の乱と平氏の栄華」に続いて、第二巻「治承~文治の内乱と鎌倉幕府の成立」も早々の刊行に漕ぎ着けたいと思います。

 早々に素晴らしい原稿が集まっているのですが、一部の執筆者にそれぞれやむを得ない御事情が発生して、その対応で時間をとられております。担当の編集者の方にも御尽力をお願いして早期刊行を目指す所存です。すでにお原稿をお送り下さった先生方には、しばしお待たせすることになり、恐縮ですが、この場を借りて御猶予をお願い申し上げる次第です。
 平雅行先生御担当の第三巻「公武権力の変容と仏教界」、これも楽しみです。私も「宇都宮頼綱」を書かせて頂きました。

 出版に関しては、単著の執筆の御依頼を頂きながら長くお待たせしてしまっているものがございます。申し訳ありません。この数年、矜持をもって本を著すことが難しいような状況が急速に進行したことでモチベーションを減退させたという言い訳もあるのですが、やはり私自身の怠惰と耄碌が主因に違いありません。ただ、本のテーマに則した、執筆の前提になる研究は進めております。勝手な言いぐさで恐縮ですが、編集者の御矜持にお応えできるほどの内容を期したいと存じております。
 ちなみに、もう15年もお待たせしてしまい、その間に元木先生や美川先生の御著書が刊行された、某ブックスの原稿はすでに8割方の完成を見ております。

 ゼミも私自身の研究も多くの方々に支えられていることを痛切に実感いたしております。本年もまた、どうぞ宜しくお願い申し上げる次第です。