ミュージアム知覧

No.5346

 近年、国や地方公共団体の財政が深刻な事態に直面している。当然、緊縮策が打ち出されるが、その場合、あまり不満の出ない、そして形の見えない「文化」にたいする予算が削減の対象になりがちである。
 バブルの時期、各地に立派な博物館がたくさんオープンした。ただ、それは文化への投資というより、互いに競い合って博物館という名前のハコモノを建てたに過ぎないようなケースが多いようだ。そうであるかないかは、その博物館の展示や研究活動によって一目瞭然である。
 鹿児島県知覧町のミュージアム知覧も、このころの開館である。当時もっとも斬新な展示手法を誇っていた京都文化博物館から、鹿児島経済大学(現、鹿児島国際大学)に赴任したばかりだった私も、さっそく見学に出かけた。ローカルで地味な博物館をイメージしていたのだが、その予想は見事にくつがえされた。薩摩と海とのつながりをテーマにした素晴らしい展示形態に圧倒されたのである。
 この博物館の展示がすぐれているのは、何よりも学術的な裏付けが明確であるからである。展示物そのもののインパクトもさることながら、発信される情報量が大きいのである。したがって、子どもから研究者まで飽きさせない。
 町立という設置規模であるのに、この博物館では、企画展の図録のほか、充実した内容の研究紀要も刊行している。埋蔵文化財の調査にも携わる学芸員の方たちは、さぞ忙しいことだろう。にもかかわらず、彼らの活躍はめざましく、知覧城跡は国の史跡に指定されることになった。
 地域住民の文化的アイデンティティの形成に博物館が果たす役割は限りなく大きい。その地に住むことの幸せ、いわば「心の地域福祉」が実現されるからである。
 たまたまミュージアム知覧を例に挙げたが、各地方自治体は緊縮財政下の今こそ地域と結びついた文化事業の重要さを見なおすべきであろう。
 博物館を入館者の数や採算で評価するのは誤りである。

 ☆ とても久しぶりに、ミュージアム知覧の創立に携わった懐かしい友人からメールが届きました。そこで思い出した旧稿をリニューアルして書き込ませていただきました。

 卒論の皆さんは、いよいよ大車輪の段階だと思います。風邪に気をつけてもう一踏ん張りです。

 本日は京都検定の試験があったようです。御存知N君も受験されたとのこと。合格を祈ります。
 もちろん一級ですよ。

博物館と指定管理者制度に関する記事。

No.5367

佐伯です。
野口先生の書き込まれたことと関連する記事が先日ありましたので、ご紹介までに。

ご承知の通り、最近博物館では指定管理者制度の導入が進んでおります。
導入前から、「非営利事業である博物館の活動になじまない」、「指定管理者が短期間で変わることにより、継続的な活動が出来なくなる」といった
博物館側からの反対や危惧の声が非常に大きかったわけですが、
現実に導入が進む中での現状や問題点といったものをまとめた記事が、
12月9日(土)の日本経済新聞の40面(=裏面トップ)に掲載されています。
制度の問題点がモロに出ている伊丹・広島の事例、
制度の枠組みの中で博物館の活動を維持していこうとするための釧路・長崎の事例、
指定管理者制度の枠組みに乗らずに、構造改革特区として地方独立行政法人化を目指す大阪の事例などが紹介され、
参入に慎重な企業側の意見も掲載されています。
(長崎・大阪は歴史博物館の事例、あとは美術館の事例です。)
この問題に多少関わったことのある身としては、「何を今更」という感もありますが、
とはいえ、こうしてマスコミが問題点を認識し報じてくれるようになったことは意義があると思います。
(導入前は「指定管理者制度万歳!」的なお先棒担ぎの記事ばかりでしたから…)

博物館関係者の方、学芸員志望の方には役に立つ記事かもしれないなあと思い、紹介させていただきました。
ご参考までに。