美川圭『院政』(中公新書)ついに刊行!

No.5167

 今朝、新聞を取ろうと郵便受けを開けると、中央公論新社から美川先生の新著が届いておりました。

 『院政 もうひとつの天皇制』定価861円(本体820円)です。

 出版社の宣伝用のコピーをそのまま引用させていただきますと、「退位した天皇が権力を持ったのはなぜか。古代から中世まで、壮大なスケールで日本政治史を見渡す試み」・・・という本です。

 第一章 摂関期までの上皇    第二章 院政の開始   第三章 院政の構造
 第四章 白河院政から鳥羽院政へ  第五章 保元・平治の乱から後白河院政へ
 第六章 後白河院政と武家政権  第七章 後鳥羽院と承久の乱  第八章 鎌倉後期の院政

 という章立てで、「院政」を視座に中世前期の政治史が興味深く語られています。鎌倉時代に力点が置かれており、美川先生の御研究の真骨頂が分かりやすく示されています。
 ゼミメンバーの多くは早くも入手済みのようですが、広く、御購読をおすすめする次第です。

 なお、学会誌から依頼された書評執筆の締切を守れない私が申し上げるのは実に気の引けるところですが、来春刊行予定の元木先生の新著(歴史文化ライブラリーの一冊)が世に出た後、この美川先生の御本と併せて公開の「書評会」を企画したいと考えております。昨年『保元・平治の乱を読みなおす』の書評会を実施したのと同じ季節になることと思います。

>美川先生  御著書の御恵送、ありがとうございました。
       著者からの一言、お願いできれば幸いです。

Re: 美川圭『院政』(中公新書)ついに刊行!

No.5169

 美川です。野口先生の過分なご紹介のお言葉、痛み入ります。

 私が、この分野での重要な研究と考えている著作、論文の隙間に、自分の稚拙な旧説を張り込んだような一冊です。ですから、この本には私の新説部分はほとんどありません。研究者の方々には、ほとんど価値がないかも知れません。また、若い方々はここに書いてあることを乗り越えるように、ぜひよい研究をしてください。突破口はさまざまなところにあると思います。

 ということで、この本の目的は、日本中世政治史の水準を、ぜひ一般の読者に知っていただきたいということです。どなたかの主張とは異なり、平安時代から鎌倉時代の政治史は、けっして未開拓な分野ではない。私の旧説はたいしたことはないにせよ、この本の中核をなしている研究は一流のものだと思います。それこそ、去年の大河の義経とは隔絶した世界であり、あの稚拙なフィクションよりも、ここに描かれた歴史のほうがずっとおもしろいはずなのです。そのために、とにかく固有名詞にできるだけルビをふり、あるいは用語を説明し、といったことに力を注いだ(実際には編集者の並木さんがですが)本なのです。その点では少々誇ってもいいかと思っています。

 あと、これは自己満足なのですが、古代の太上天皇から、院政の終焉までを、ずっと見通すことができたことです。しかし、それはそれは長かった。執筆途中、何度か挫折しかかりました。1度目は保元の乱のところ。なんとか、元木先生の著作にすがりながら、よろよろと立ち上がり、さらに後白河の死前後で倒れました。そこで、上横手先生と故目崎徳衛先生の著作に助けていただきました。わたしの能力からすれば、ここらあたりが精一杯です。ごめんなさい。

 なお、拙著を読んでいてうんざりした方は、私の新しい映画評でもごらんください。終戦前後の昭和天皇をイッセー尾形が演じたロシア映画『太陽』お勧めです。

http://www.avis.ne.jp/~iwasaka/mikawacinema.htm