07年度の共同研究について
No.5133
昨日の卒論中間報告会は報告者の尻池さんを除いて(午前中、平田さんがお見えでしたが)、すべて男性メンバー。「これで何で女子大のゼミだ」とお叱りを受けそうな事態でした。それにしても、佐伯君がお手製のポテトやパンプキンのケーキを持参されたのには感動しました。これは女子大のゼミらしい。愛知から高速バスで駆けつけ、翌日の授業のエネルギーを確保するために(もはやプロ魂を発揮!)いそいそと新幹線で帰られた野口君からも、例によって美味しいお土産をたくさん頂きました。御両人にあつく御礼を申し上げます。
また、このところ各方面に活動の場を展開させていた3Y諸氏が久々に顔を揃えたのも嬉しいことでした。
本題の尻池さんの御報告ですが、オリジナルな指摘もあって、卒論としては出色の出来だと思います。そのうえ関西圏の主要大学に所属し、この時代を専攻しているDC院生諸君から多くの貴重なアドバイスを得たわけですから、きっと素晴らしい卒論が仕上がるものと期待しております。
ところで、来年度の共同研究(研究代表者は私です)について下記の如く決定いたしましたので、確認の意味も含めてここに公示いたします。
「権門都市」宇治の成立 (中世前期の宇治に関する総合的研究Ⅱ)
1.研究目的
平成18年度より約5年計画で、中世前期における「権門都市」宇治をめぐる諸問題を研究テーマとして掲げ、文献史学・国文学・考古学の側面からアプローチをはかっている。
近年、中世前期都市史研究は活況を呈しており、そのなかで京都・平泉・鎌倉という王家・武家の政治権力の所在した都市については大きな成果が示されている。しかし、王権に包括されながら、実は国家的な権能を担い、平泉や鎌倉の政治権力にも大きな影響を与えた摂関家の本拠の都市である宇治については、ほとんど関心の対象にされてこなかった。本研究は、宇治を中世前期における権門都市の典型ととらえ、その政治・経済・文化・軍事機能を平泉など他の権門都市との比較を踏まえて解明し、その成果を中世都市史研究の中に位置づけることを目的とする。
2.研究協力者
【文献史学】佐伯智広,岩田慎平,佐藤英子,長村祥知,辻浩和,坂口太郎,樋口健太郎
【国文学】田中裕紀,雨野弥生
【考古学】大原瞳
【情報処理】鈴木潤,永富絵里子
3.研究概要
【文献史学】①従来研究の手薄であった鎌倉初期(1180年~1220年ごろ)の宇治に関する史料を博捜し、現地調査をするなどの基礎的な作業。②摂関家の葬地や別業が設定される背景となった宇治地域の空間構成を前提に摂関家と宗教に関して考察する。③院政期における宇治御幸について政治史的分析を加える。④宇治の大殿忠実について、その権力の実態を検討する。⑤宇治の軍事的機能に関わる考察を行う。⑥京外遊興地としての宇治・伏見の性格について分析を加える。⑦鎌倉時代中後期の宇治に関する宗教史的考察。
【国文学】⑧物語における武士と宇治について考察する。⑨宇治が重要な権門都市であったという視角が開けてきているが、そのような宇治を舞台とした物語はいかに書かれているのかを考察する。⑩都市研究の進展を受けて、物語の場としての宇治の新たな視角を導き、「物語・説話における舞台空間としての宇治」を解明する。
【考古学】⑪これまで行われた発掘調査の成果を整理し、摂関~院政期における都市空間の復元に資するとともに、⑫出土した土器の編年について検討する。
18年度は③⑧⑫について具体的な研究が進められた。
4.研究計画
研究協力者が全体の研究テーマに即した形で個々のテーマを設定し、その成果を全体の研究会で報告・総括し、さらに個々の研究作業に活かしていくという方法をとり、研究代表者は自らの研究課題を設定するとともに全体の総括を担当する。また、文献・考古についてはそれぞれのメンバーでチームを構成して、基礎的な文献・史料の博捜につとめる。とくに文献史学と国文学は、たとえば説話類の記述についても、史料として分析の対象とすべきものが多いことから、相互に緊密な連携をはかる。また、建築学など周辺分野の諸業績を積極的に活用するとともに、つねに平泉や鎌倉などと比較する視角をとる。
情報処理担当の研究協力者は、この研究で得られた情報の整理や研究過程における情報機器の活用について技術協力を行う。研究成果については個人および研究ジャンルごとに積極的に論文化をはかっていく。
【18年度実施した見学・調査地】浄妙寺跡・頼政道・宇治神社・宇治上神社・平等院(阿弥陀堂・鳳翔館など)・白川(白山神社・寛子供養塔など)
【18年度実施済みの研究報告テーマ】野口実「「権門都市」としての宇治」,大原瞳「宇治市域における土器様相~平等院創建前後を中心に~」,佐伯智広「後白河院の保元三年宇治御幸」,長村祥知「承久の乱における宇治川合戦」,岩田慎平「都市宇治形成試論-道長期を素材に-」,佐藤英子「平等院宝蔵・経蔵と摂関家家司~『玉葉』に見る九条兼実家司を中心に~」,田中裕紀「「文学における宇治」を考える諸前提」
5.備考
研究協力者の多くは宗教・文化研究所ゼミナールの活動に参加するなかで、研究者への道を志し、すでに各ジャンルの第一線で活躍中の若手研究者たちである。ゼミナール活動との連携、あるいは今後の研究所の研究活動の一つの主体的方向をこの研究の中でつかみたいと考えている。なお、この共同研究に関わる現地調査および研究報告会などの具体的な活動には、当該ジャンルの研究者や研究所ゼミメンバーのみならず本学および他大学の院生・学部生の参加を積極的に奨励している。