衣川遺跡群の現地説明会は15日

前川佳代
No.4196

 野口先生が中尊寺の菅野成寛氏から情報を得られた、平泉の北に隣接する衣川遺跡群の現地説明会が15日に開かれます。私は9月上旬に見学してきました。
 今回の調査対象は六日市場・細田・接待館・衣関道遺跡で、北上川遊水池計画による衣川堤防建設のための事前発掘調査です。つまり調査経緯は、現在国史跡となった柳の御所遺跡と同じ緊急発掘調査で、調査面積は3万7千㎡、東西700㍍に及ぶ広大な範囲となります。
 特に注目されているのが、調査前から「かわらけ」が採集され、土塁が残存していた接待館遺跡で、幅8mの堀が遺跡を囲むと想定され(去年度の試掘で検出)、内側にコの字状の溝が(堀?)も検出されて、多量のかわらけが出土しています。二重堀と称しているのは、外郭を廻る不整形な堀と、内郭を形成すると考えられる方形の溝(堀?)のことで、いわゆる堀が二重に外郭を成すという意味ではありません。残念ながら遺跡の中心域は調査対象外と衣川の浸食によって削られています。
 さらに、六日市場・細田・接待館遺跡がのる段丘の下段にある衣関道遺跡では池状遺構が検出されており、州浜の地形石が見られました。おそらく庭園を形成していたと思われます。
 他遺跡では柱穴や区画溝らしき溝も検出され、平泉中心域の街区に類似した遺構が展開しているとイメージしていただいていいかと思います。
 また11世紀代の遺物や遺構もみられるとのことでした。つまりは安倍氏の時代と重なります(これは大変重要です。接待館の調査成果だけが注目されますが)。
 接待館遺跡は、藤原秀衡の母が旅人を慰労した館跡と伝承されてきたのですが、大規模な堀と、京風かわらけの出土から、源義経が自刃した藤原基成の館・「衣河館」に比定しようとする見解も出ています。平泉には義経最期の地という高館がありますが、『吾妻鏡』には「藤原基成の宿館衣河館」で死んだとみえ、義経最期の地が特定できない状況なのです(これらの整理と私の見解は『歴史群像シリーズ76 源義経』に「未だ定まらぬ義経最期の地」としてまとめましたので、参照ください)。

 以上のような多大な調査成果があがっている遺跡群なのですが、堤防建設の緊急調査であり、遺跡は消滅する可能性があります。既に衣関道遺跡の西隣には堤防が建設されて周囲の景観が一変しています。現地説明会を開くという経緯にはおそらく、平泉の世界遺産登録を前提とした遺跡保護の方向性が見えたということだろうと推察しております。それならば、調査側も、体制を立て直し、目的意識を明確にした発掘調査へ切り替えて欲しいものです。そして、多くの研究者を含めての議論でもって、本当に「衣河館」なのか否かを結論つけるべきなのです(柳の御所でさえ「平泉館」かどうかという議論は終わっていません)。遺跡の性格を決定するにはあまりにも材料不足であると感じます。また詳しくは例会の時にでもお話いたします。

 現地説明会は15日午後1時から。見学希望者は衣川村の調査事務所プレハブ前集合。問い合わせは調査事務所(0197-52-4640)へ。

平泉と宇治。24日がいよいよ楽しみです。

No.4197

 前川さん、早速の御教示、ありがとうございました。
 接待館遺跡の二重堀は、神戸大学附属病院敷地検出のようなものではなく、内堀と外堀の意味ですね。菅野先生から頂いた資料によると外堀の上幅は8㍍とのことで、衣川の北岸から柳之御所遺跡がもう一つ発見されたという観があります。
 さらに衣関道遺跡で庭園遺構まで出ているとなると、平泉の都市としての評価はだいぶ変わらざるを得ないのではないかと思います。衣川の南北に二つの都市域が形成され、それが有機的に結合していた。山田邦和先生が京都で指摘されている「巨大都市複合体」に似たものを思い描きたくなります。
 安倍・清原氏の時代からの連続性の問題も含めて、また平泉が面白くなってきましたね。15日の現説は無理ですが、ぜひ現地に行ってみたいと思います。
 しかし、宇治の都市域が平泉を上回るかと思っていたところ、実にタイミング良く情報が届いたものです。もっとも、宇治も宇治川右岸にも都市域が展開していたと思われますし、岡屋・木幡・伏見との関係はまさしく都市複合体の様相を呈していたのではないかと考えられるのではないでしょうか。
 このあたりの問題についても、24日、前川さんに御意見をいただきたいと思っております。
 文献の方からも、宇治と武士の関係など面白い様相が見えて来つつあります。宇治は決して「雅やかな貴族たちの別業」のみのイメージで語るべき空間ではありません。

24日参加させてください

No.4198

平泉のこと、知らないことだらけなので、24日の前川さんのご報告、ぜひ参加させてください。現地の遺跡になかなか行けそうもないので、状況もお教えください。

24日の例会は面白くなりそうです。

No.4200

 美川先生、うれしい限りです。コメントをよろしくお願いいたします。
 
 24日の例会には、田中さん(「気の利いた面白いことを言えるタイプの人間」という雨野さんによるイントロダクションは適切)をはじめ、教職に就かれているメンバーも大挙集まってくれるとのことですから、盛会が期待されていよいよ楽しみです。

☆ ゼミメンバーの皆さん
 購入希望の図書や消耗品など早々に御連絡下さい。できるだけ善処したいと思います。
 11月7日の例会で御発表いただくことになっている樋口健太郎氏の論文「藤原師長の政治史的位置-頼長流の復権と貴族社会-」が巻頭を飾る『古代文化』第57巻10号は既に納本済みとのことです。
 ちなみに、この号には内田好昭氏の「<図版解説>亀山殿(史跡名勝嵐山)の発掘調査」も掲載されています。去年、山田邦和先生・ちさ子さん御夫妻、京樂真帆子先生、平田さんと見学に行った、あの南北の壕の気になる遺跡です。

>八井君  同志社の後輩である石井一英君を是非紹介したいと思っております。

美川先生、よろしくお願いいたします。

前川佳代
No.4202

 例会に美川先生がご来場くださるとのこと、今から緊張しております。どうぞよろしくお願いいたします。

 今朝、平泉から新聞記事のファックスが届きました。それには、衣川堤防の工事見直しを協議する方向性が示され、また当初、今月末で終了予定だった衣川遺跡群の発掘調査が来年度も継続されるとありました。詳しくは岩手日報の「平泉世界遺産への道」をご参照ください。
 
http://www.iwate-np.co.jp/sekai/sekai.htm#051015