殿下?ならぬ創作乗合事件

美川圭
No.3220

20日の義経見ました。

後半に、いかにも殿下乗合事件のようなシーンがありましたね。
でも、変だと思いませんでしたか。
殿下乗合事件は、『玉葉』などに記された史実と『平家物語』虚構とがありますが、どちらにせよ、「殿下」つまり松殿基房の行列が問題なのです。
ところが、あのシーンでは、牛車の前の者が「三位様のお車じゃ」といっている。
基房は摂政で藤氏氏長者、すなわち「殿下」です。
位は従一位、もちろん、三位(さんみ)でも、参議(さんぎ)でも、ありません。
維盛と資盛との会話に「先年同様なことで、父に怒られた」
という風なのがありました。彼らの父は重盛。
とすると、どうも「先年の事件」こそ「殿下乗合事件」。

このシーンは、ドラマの創作なんでしょう。
嘉応2年(1170)の2回の衝突のあと、こんな事件なかったですよね。
これだけ堂々とやられると、心配になります。
私だけ知らなかったりしたら、大恥ですが。まあいいか。

それにしても、前のシーンで基房が怒っているので、
視聴者は嘉応2年の「殿下乗合事件」と誤解するでしょうね。
しかも、「三位様」ではだれだかまったく特定できない。
そんなハンドルネームみたいなこと言うはずもない。
平氏側が烏帽子をとられるシーンで、歴史を知っていることを誇示しているようですね。史実だと、基房側の前駆が髻を切られたとなっているのですが。

それにしても、視聴者の大半が「殿下乗合事件」というふうに理解して見ているのに、実は創作、という作りが理解できない。
歴史家あたりが、文句つけてきたら、こりゃ創作だ、と反論するためだろうか、などとも考えていますが、どちらにせよ、頭を悩ませるシーンでした。

事実関係、よく調べず書いているので、間違いがあれば、ご指摘ください。


Re: 殿下?ならぬ創作乗合事件

佐伯真一
No.3224

 私も不思議に思って見ていました。
 終わりの方のシーンの作り方から見て、今回は最初の衝突(資盛がやられた方)で、重盛が報復するシーンを来週ぐらいにやるのかと思いますが、だとすると、語り本などの『平家物語』諸本によるなら、資盛は鷹狩りからの帰りで騎馬ですし、『玉葉』『愚管抄』や盛衰記によるなら、女車に乗っているはずで、どちらとも違っていたように思います。また、いずれにせよ維盛が出てくる必要はありません(まさか、「資盛=孝太郎=親の七光」という印象を薄めるために、もう一人出してみた、というわけでもないでしょうが)。
 『宮尾本平家物語』では、最初の衝突場面は普通に語り本『平家物語』によって書かれているので、NHKの番組を作った人に、何か狙いがあるのだろうと思います。清盛の悪役化を避け、史実に沿って重盛による報復と描くという基本線までは『宮尾本』によっているわけでしょうが、その他は、ずいぶん変わっています。「三位様(?)」の件といい、ちょっと理解しにくいですね。まあ、来週見れば、少しはわかるのかもしれませんが。
 

Re: 殿下?ならぬ創作乗合事件

美川圭
No.3225

佐伯先生、ありがとうございます。
私だけが、疑問をもったのかと思いましたが、ほっとしました。

ドラマストーリーを読んでみると、
来週、兵を率いた重盛が、三位の邸内に押し入って、
力ずくで烏帽子を奪い返すということになっています。
そのことをめぐって、清盛と重盛がもめるようです。
そのまま放映されるのかどうか、楽しみですが。

おもしろい展開ですが、
そうなると事件自体は、第二の「乗合事件」となるわけで、
完全にフィクションのようです。
しかし、相手が「三位」のままだと、「三位」はたくさんいるので、
屋敷が特定できません。「三位」をだれかに決めないと、
シナリオとしては、非常に不自然となってしまいます。

『平家物語』は史実をいじって、清盛を悪役にするかたちにしたのですが、
今回の大河は、史実にない事件を「創作」したのかと思うのですが、
佐伯先生、いかがでしょうか。

資盛の「先年の騒ぎで、父上に怒られた」という台詞が、
鍵だと思っているのですが。

Re: 殿下?ならぬ創作乗合事件

No.3226

美川先生、佐伯先生、こんばんは。
やっぱりおかしいと思った。私も当然殿下乗合事件だと思って見ていたのですが、だんだん話がおかしくなって、何がなんだかわからないまま頭が???でした。
謎の「三位様」、ホント、どこのどなたなんでしょうね。位が通称になるということは、官職を持っていない散位の貴族なのか? 時期はやはり、真実の殿下乗合事件のあった嘉応2年(1170)10月以降、徳子が入内する翌・承安元年12月までの間ということになるだろうから、その時期の三位というと・・・ などと、無駄な詮索をしてしまいそうです。

しかし、「三位様」とやらのお供をしていた連中(格好からすると貴族仲間か?しかし徒歩で歩いていたということはもっと下位身分なのか?)のケンカ強いこと強いこと。資盛のお供は平家の家人でいやしくも武士のハズだが、奴らを手もなく投げ飛ばし、パンチを入れる。
まるで、仲間由紀恵さん演ずる「ごくせん」のヤンクミを彷彿とさせます。
正統的な武士は貴族の中から出てきた、という歴史学の最新学説、特に藤原信頼は武門の統括者であったという元木先生説をNHKの制作者が充分に咀嚼したことがあのシーンを生み出した(、なんてことはあるわけがありません)。

それはそうと、「夢の都」というタイトルだったので、福原をもっと見せてくれるかなと楽しみにしていたのですが、期待が裏切られました。
どこやらの浜辺から福原を遠望した時、三重塔がえらく綺麗にそびえていましたが、ありゃ何だ? あんなのがあると、私説の福原京復元案があやうくなる・・・などと考えているうちに次のシーンに移ってしまいました。

それにしても、後白河法皇が「福原の道普請が都によう似ている。それが貴族連中の不安をかき立てている」と清盛にいうのも、何でしょうね。そもそも、都と似た道普請とはどんなものでしょう? 道の作り方なんてどこでも似たようなものだと思うし・・ それとも、あの段階の福原に平安京と同様の条坊制が施行されていたとでもいうつもりなんでしょうか。わわわわわ~。頭が割れそうです。

それにやっぱり、後白河の側によりそう建春門院はあの女優さんでは役不足きわまりない~っ!!

Re: 殿下?ならぬ創作乗合事件

佐伯真一
No.3230

 なるほど、あれは殿下乗合とは別の事件なのですね。それ以前に『ドラマ・ストーリー』、もらってるんだから読めよ!って話でした。石浜さんごめんなさい。『ドラマ・ストーリー』によれば、「三位殿」の背後に基房がいるのでした(しかし、いったい誰だ、そりゃ)。
 でも、第二の事件なのだとすると、資盛は短期間の間に二度もああいうことをやらかしたわけだし、「三位殿」に至っては、基房が受けた仕打ちを知った上で、敢えて平家にケンカを売る、きわめて好戦的なお公家さんということになってしまいますね。その辺はあんまりマジメに考えてはいけないのでしょうが。
 私は、ドラマはドラマなので、史実と違っていても、それ自体は別に構わないと思っています(史実にこだわったら鬼一法眼なんか出せないし)。でも、この件は、史実とも原作とも中途半端に違っていて、変えた意味がわかりません。
 なお、山田先生、揚げ足取りで申し訳ありませんが、「役不足」は誤用かと…。私は中江有里さんけっこう好きなのですが、残念ながらはまり役ではないようです。演出の問題もあると思いますが、前にも話題になっていたように、あんまり重要性を認めた配役ではないんでしょうね…。

Re: 福原もあかん

美川圭
No.3235

>佐伯先生 まったく同感です。ドラマなのでフィクションでもいいのですが、もう少し意味のある、あるいは質の良い創作をしてほしいですね。『平家物語』と比較されるのですから。その辺の自覚があるのかなあ、脚本家は。

>山田先生
福原の扱い、変ですよね。いったい義経はどこから見ているのか。そして都と道がどう似ているんだ。あの時点で、遷都考えるわけないし。もう少しなんとかなりませんかね。よくわからないまま作っているとしか思えません。

Re: 殿下?ならぬ創作乗合事件

No.3237

>佐伯先生
「役不足」、確かに誤用でした。何も考えずにパソコンに向かうとこういうことをやってしまうのですね。お恥ずかしい・・・ 先生御自らのご指摘に恐縮しております。

建春門院をやっている中江有里さんという女優さん、あんまりよく知らないんです。先生のお気に入りとは存じませんでした。すみません。

>美川先生
大河ドラマ義経、これからもこういう、史実をちょこっと変えた妙なエピソードが登場するんですかね? 頭が混乱しないように、覚悟をしながら見ないと・・・