「軍記・語り物研究会大会」 参加報告

No.17377

 24日は藤井寺の四天王寺大学で開かれた軍記語り物・研究会の大会で「列島をかける河内源氏」というテーマで講演をさせていただき、その晩は梅田のホテルに泊まって、25日も研究発表を聴いてまいりました。
 講演の方は、このところいろいろな仕事が錯綜していたので、準備不足だったこと、しばらく授業から遠ざかっていて調子が出なかったり、冒頭のウケ狙いの話があまり上手く出来なかったことなどが重なって、いつものように不本意なものになりました。
 しかし、一番困ったのは喉に痰が絡んで声が出にくくなってしまったことで、これは予定外。老化のゆえのことだと思いますので、これからはもっとマイクを上手に活用して低い声でゆっくりと話をしなければならないと反省しております。

 講演から懇親会の一・二次会、さらに宿泊先の選定まで元木泰雄先生にはたいへん助けて頂きました。河内源氏について、どんな質問が出たところで、会場に元木先生がお出で下されば最高レベルの対応をお願いできるわけですから、心強いこと限り無しでした。また、元木先生には、近鉄大阪線や地下鉄御堂筋線の車内で、大阪の私鉄や藤井寺球場に関する様々なお話をうかがうことが出来、またしてもその博覧強記ぶりに敬服させさせられた次第でした。さらに、25日に昼食を何処で摂ろうかと、駅前を歩き回った際、元木先生のお選びになった小さなイタリア料理のお店のランチの美味しかったことも特筆銘記しておかなければならないと思います。

 なお、会場には24日と25日の藪本勝治君の研究発表の時に岩田慎平・山本みなみ両師範代がお見えになっていたのを始め、両日(懇親会も)にわたって長村君(藪本君の発表の司会をつとめられました)、また24日のみでしたが、越後国からはるばる「田中さん」こと丸山裕紀さんがお出でになっておられました。
 24日には、神戸大学の樋口大祐先生がお出で下さり、御門下の院生お二人(中桐さん・斉賀さん)を御紹介下さりました。このお二人にはぜひ、当方のゼミ史料講読会などに御参加頂ければと思っております。岩田君・山本さんにお引き合わせ致しましたが、連絡など上手くとれているでしょうか?
 それから更に、来年度の公開講座の講師について、田中さんから、この研究会に御出席になられている東京の私大の先生を是非にという御推薦を頂きました。そこで、ちょうど翌日の25日の研究発表の休憩時間に、すでに決まっているもうお一方の講師とその先生が近くにおられたのを幸いに、ここぞとばかりに御依頼を申し上げたところ、こころよく内諾を頂くことが出来ましたので御報告申し上げます。この件については、次回のゼミの時間に御報告申し上げます。

 さて、肝腎の研究報告の感想ですが、なにしろ圧倒的にインパクトのあったのは藪本君の御報告「『吾妻鏡』の合戦叙述─奥州合戦を中心に─」でした。これは、今日の日本中世史の学界で定説化している川合康氏による所説を克服する内容をもつもので、国文学よりも日本中世史研究に与える衝撃の方が大きいのではないかと思われます。川合氏は奥州合戦を頼朝による政治と捉えたのですが、藪本君はそれを『吾妻鏡』編纂者の構想の中に位置づけなおしたのです。今後、『平家物語』史観ならぬ『吾妻鏡』史観への取り組みを、文学の若い方々に期待したいところです。
 それから、懇親会の席で小さいお子さんが三人おられるというお話をうかがった若い女性研究者の御報告も鎌倉幕府成立期における文士の人脈を考える上で、実に興味深い内容でした。子育て・家事・研究のすべてを熟しながらの日常は大変だと思いますが、頑張って頂きたいと思いました。こういう方の存在を知ると、いろいろ理由をつけて自分の希望する途を放棄して、たった一度しかない人生を無駄にしてしまうよりも、なんとか頑張ってみるべきだと若い人たちにお説教をしたくなってしまいます。
 楽しみにしていた野中哲照先生の『陸奥話記」に関する御発表は大変熱の入ったもので、精力的で緻密な作業を前提とした書誌学的な御説明には大いに蒙を啓かれました。ただ、考察の部分では歴史学の立場からするといくつか違和感がありましたので、非礼を省みずに、これは率直に指摘させて頂きました。その点を再考して頂ければ、歴史学の側からの評価に於いても前九年・後三年合戦に関する従来の理解を克服する研究成果が導かれるのではないかと、大いに期待するところがございました。

 というわけで、この二日間はなかなか充実したものがございました。ただ、今になって明らかに致しますが、私は例によって胃腸の不調が続き、懇親会の一次会の時など、いささかこまった状態に陥っておりました。席の周囲が兵藤裕己先生や源健一郎先生など親しい方たちばかりだったので、それで救われましたが、まぁ、普段は、身体の具合や腹の中で考えていることが、そのまま外面に出ている単純明快なオヤジである野口でさえも、内と外で相違する場合のあることを御理解頂ければ幸いであります。

 最後になりますが、この大会にお招き下さり、大変・大変お世話になった源健一郎先生と平藤幸先生に、心からの御礼を申し上げます。
 平藤さん、御上洛をお待ち申し上げております。